代理人の選択

北風と太陽

子を拉致された直後,友人知人からの紹介弁護士を訪ねると,母親に因る拉致には成す術が無い状況であることを正直に解説されるばかりだった。

法的救済があると信じたく,紹介者は居ないけれど子の連れ去り後の引き渡し請求の成功経験があるという弁護士に依頼することにした。

実際には弁護士になりたての若い男の子が担当して,実績を謳っていた弁護士は一度も関与することは無かった。

子を連れ去られて2週間も経つと数百人という同境遇当事者とのネットワークができていた。

当事者達から二人の弁護士を教わった。

1人は北風と太陽の「太陽」と称されている弁護士だった。北風と太陽にたとえられていることは知っているけれども,戦える案件は戦う,貴方の案件は毅然と戦える案件だと言われた。しかし,依頼したばかりの弁護士を解任する費用はもったいないので,セカンドオピニオンとして,経験が不足している今の代理人を生かせるように助言するとのことだった。

太陽は自分と歳が同じで,姓の読みも同じで,同じように歳の離れた息子さんのいる父親だということで,とても他人事に思えないと言ってくれた。

「北風」と称されている年配の弁護士の意見も聞いた。北風は,今の弁護士は経験不足過ぎるので自分が本気で引き渡し請求をやると言い出した。そして「太陽」のことを「彼は北風と太陽の太陽と呼ばれていて戦わない弁護士だ」と誹謗した。その日は北風と契約する気にはなれなかった。

「太陽」からもらった助言を元に今の代理人に,提出したい書類の相談をしようとしたが,メールも電話もレスポンスが無く1週間が経った。

今一度「北風」を訪問するとやはり,直ぐに自分に任せろと言われた。「北風」を第一人者と評価する当事者もいる一方で,雇用している弁護士達に丸投げするという意見も多く聞いていた。その不安を率直に尋ねたところ自分がメインで確りやると念を押された。約2時間の打ち合わせをし気迫を感じ,かけてみることにした。しかし,契約書に捺印した途端に今まで一切顔を合わせても居ない弁護士が出てきて,自分が担当すると挨拶をされた。そして,その直後に,連絡を取れていなかった今までの代理人からようやく電話がかかってきた。今丁度,新しい代理人と契約したことを伝えた。

既に前代理人が申立済みであった,監護者指定と引き渡し請求と審判前の保全の1回目期日において,「北風」は,冒頭5分間,裁判所の実務の運用がおかしいと怒鳴り散らした。そして,けれど早々に監護権を剥奪されたくないからと全て取り下げると言った。始まったばかりだったので担当の斎藤裁判官は驚き,自分に向かって「本当にいいの?それで?」と尋ねた。自分は「いいはずないでしょう。けれど私は素人です。第一人者である代理人がそうすべきというのならそうします。」と伝えた。斎藤裁判官は,森法律事務所の弁護士らに向かって「監護者指定や引き渡し請求が取り下げられるからといって,会わせないなんて駄目だよ,ちゃんと会わせなさい」と一喝してくれた。今思えば,唯一まともな担当裁判官だった。

北風が本気で引き渡し請求をやると言ったから,契約したばかりの一人目の代理人から切り替えたのに,早々に全て取り下げられてしまったことに不満をもっていたところ,「信用されていないようだから辞める」と一方的に辞任されてしまった。

かくして,息子を誘拐されてから僅か1カ月半で,二組の代理人と200万弱のお金を失った。

「太陽」に相談に行くと,驚き「なんてことをしてくれたんだ。今まで児相への通報や警察への告訴,引き渡し請求など,一貫性のある行動をしていたのに,取り下げられては,交渉カードが無くなったじゃないか。」と嘆いた。そして,今後は交渉カード無く相手の気を遣うことしか出来ないことを解説された。

「依頼人が従順で無いからと言って弁護士が仕事を投げ出すのは,生活習慣病の患者の治療を医師が投げ出すようなもので許しがたい。プロでは無い。」と呆れ果てた。

「太陽」は落ち込んでいる私に対して,「簡単な相談はメールでしてくれれば無料で対応する。」と言ってくれた。

別居親弁護士

「太陽」からは,一旦取り下げた監護者指定や引き渡し請求を今さら再申立しても,裁判所には支離滅裂な迷惑者としか映らなくなったと説明されたが,諦めきれずに次の代理人を探した。

ある別居親である弁護士が「俺も同境遇だ。毅然と戦う。」と言ってくれた。しかし,仕事をしないという悪い噂もあるので入念に何度も打ち合わせをした。成功報酬の設定を先方提案よりわざわざ高くした。引き渡し請求の再申立の期限や,作成する書類の種類,方向性,繁忙時期,雇用計画,事務員の紹介など細かく打ち合わせをして,議事録を作り,齟齬が無ければ振り込みをすると伝え契約をした。しかし,その弁護士は,契約後は,いつまでも書面を読み込まずに事件を把握せず,引き渡し請求も契約前の約束を破り再申立を一向にせず,書面を書かず,面会交渉もしないという状況で,むしろ障害となり立ちはだかることになった。

そして彼の宣伝となるような記者会見をする彼の他の依頼者の事件の傍聴人集めなどに奔走させられることになった。


拉致断絶との交渉記録

ある日突然拉致され,関係を風化させられ,再会する事に罪悪感を持たされる虐待を受け,生き別れとなった愛する息子と再会する為に交渉した記録です。 「酷い父親だった。お前は捨てられたんだ。」と聞かされ育つであろう息子が,いつの日か自分のルーツに興味を持ち真実を探した時の為に書き遺します。